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札幌地方裁判所 昭和37年(ヨ)91号 決定

申請人 北海道放送株式会社

被申請人 北海道放送労働組合

主文

被申請人は所属組合員をして、別紙第五目録記載の非組合員が別紙第一目録記載の建物内においてテレビ番組製作並に送出し業務を遂行するため別紙添付図面青斜線部分に出入りするのを口頭による平和的説得の外スクラムを組んで阻止するなど有形力を行使して妨害してはならない。

申請人のその余の申請を棄却する。

申請費用はこれを二分し、その一を申請人、他の一を被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、申請の趣旨

一、別紙第一目録記載の建物の四階三六二、三七坪のうち、九七、六一六坪(別紙図面中赤・青斜線で囲んだ部分)に対する被申請人の占有を解き、これを申請人の委任する執行吏の保管に付する。

二、執行吏は前項の保管部分につき申請人に使用を許さなければならない。

三、被申請人は別紙第一、同第二の一、二同第三、同第四の各目録記載の建物について申請人が別紙第五目録記載の非組合員をして別紙第六目録記載の各業務をなさしめることを妨害し、又は所属組合員をして妨害させてはならない。

第二、当裁判所の判断

一、申請人(以下単に会社と称する。)被申請人(以下単に組合と称する。)双方の提出にかかる疏明を綜合すれば

1、会社の一部の従業員で結成されている組合は、会社に対し賃金ベースの改定等の要求を提出して昭和三七年三月二一日から争議に入り、当初は所謂時限ストにとどまつていたが、同月二八日以降は全面的に労務の提供を拒否するに至つたこと、そして、同月二七日以降別紙第一目録記載建物四階のうち、別紙添付図面青斜線部分における会社役員並びに職制のテレビ番組製作並びに放送業務をなさしめないため別紙図面赤斜線部分および右四階第二会議室から青斜線部分に通ずる出入口前に常時組合員合計五・六〇名を集合させて右役員、職制の出入りを監視しその入室を企てる者に対してはその出入口前である右赤斜線部分で積極的な行動には出なかつたがスクラムを組み、説得と称して、その入室を拒む態勢をとつたこと、会社側は同年四月二日にいたり、初めて右職制をして赤斜線部分を通つて青斜線部分に入室させようとしたところ組合員は先ず二〇名ないし三〇名をもつてスクラムを組む等の方法でその入室を拒みつゝ、説得にかゝり会社側において右説得に応じないにかかわらずなおスクラムを解くことなく、結局赤斜線部分出入口からの青斜線部分に対する右職制の就業のための入室を不可能ならしめたこと、この間他方会社職制約一一名は別紙添付図面青斜線部分に対する第二会議室からの出入口においてスクラムを組んで阻止する組合員の頭上を越えて青斜線部分に入り、テレビの受継放送を開始していること、組合においては、依然別紙赤斜線部分および会議室横のB階段に組合員約五・六〇名を集めているため、会社役員並びに職制が組合員の説得に応ぜず右赤斜線部分を通り青斜線部分に入室しようとする場合、スクラム等の方法をもつてこれを阻止される虞れのあること、

以上のことについて、疎明があるものといわなければならない。

二、当裁判所の使用者及び労働組合の労働法上の諸権利に対する見解は次の通りである。

1、使用者は、労働組合のストライキによる就労拒否中と雖も、経営権を有し、自ら業務を遂行する権利を有する。本件においては、労動協約第三一条に、「組合が罷業権を発動した場合、原則として組合員の部署を他の者をもつて代置しない。」との規定があるが、右規定は、会社が労使以外の第三者を雇つて所謂スト破りをさせることを禁止したものと解するのが相当であり、会社が自ら役員又は会社側の非組合員を使つて業務を遂行することまでも禁止したものと解すべきではない。即ち、右規定によつて、会社がその業務執行権を放棄したものと解することはできない。

2、労働組合は、就労拒否が争議手段として認められている以上、使用者がロツクアウトをしない限り、就労拒否に附随する行為として事業場内においても所謂ピケを張ることは許されるものと解すべきである。従つて、本件において、組合は、各職場に対しピケを張るため、別紙目録記載の各建物に立入ることができ、会社はこれを受忍しなければならない。したがつて使用者は右の限度において行動する組合員に対し、事業場又は施設の所有権占有権に基いて、その占有の排除を求めることはできないものといわなければならない。

3、しかしピケの方法は、平和的説得に限り、ピケ又は説得に名を藉り暴力その他の有形力を行使することは許されない。従つて、本件において、会社が経営権に基づき業務の執行をしようとする際、組合がスクラムその他の方法で実力をもつて、会社職制の業務を妨害し又はそのおそれのある場合は、会社は、組合に対して、業務の執行を妨害しないことを請求する権利を有する。

4、また労働組合は、争議行為に名を藉りて職場に対する会社側の占有を全く排除して、これを自己の占有下におく権利はない。従つて、本件において、組合がピケの名の下に、前記建物の全部又は一部について、会社側の占有を全く排除するに至つたならば、会社は、組合に対して、所有権又は占有権に基づいて、占有を回復する権利を有する。

三、前示一、の認定のように、本件において、組合はピケの目的で赤斜線部分を占有していることは明らかであり、会社側においてロツクアウトをしていないこともその申請の理由から明らかである。そして組合が前示赤斜線部分に組合員を集合させ会社役員又は職制の青斜線部分に入室するのを阻止している態容は前示一判示のとおりであつて、いまだピケのための占有である性質を変えた程度に至つたものとは認め難いから、前示二の(4)説示のような場合ではなく会社において所有権がある故をもつて組合の右占有を排除し得ないものと解すべきである。

しかして会社は二(1)に述べた如く経営権に基き業務を執行する権限を有するのであつて、組合は会社の右業務の執行に当り、二(3)に述べた如く平和的説得以外の方法をもつて業務の妨害をなし得ないことも又、前示説示のとおりであるところ、会社側がその役員、職制をして青斜線部分においてなす業務を遂行するため赤斜線部分を通行させる際に、組合において組合員をして平和的説得以外の方法(単にスクラムを組んで事実上通行を妨害することも含む)によりこれを妨害し又は将来妨害する虞れのあることも前示一判示のとおりである。

以上によれば、会社の本件申請は、組合の占有の排除を求める限度においてはその理由はないが会社職員の業務の執行につき組合に対し平和的説得以上の方法による妨害の禁止を求める限度においては理由がある。

四、よつて、本件申請の必要性について判断する。疎明資料によれば、組合が平和的説得を超えるピケツトを行使して会社職員の業務を妨害した場合に、会社の蒙る損害は一日約二五〇万円であつて、申請会社において右損害を受けるときは、経済的に相当の影響があることがうかがわれるので、本件仮処分の必要性が認められる。

五、なお、主文第一項掲記以外の部分についての申請については、現在組合において会社の業務執行を阻害していることならびに阻害する虞れのある点について疏明ありとなし得ないので右部分の申請は理由がない。

六、よつて、会社の本件申請は主文第一項掲記の限度においてこれを認め、その余は理由なしとして棄却し、申請費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小河八十次 武藤春光 荒木恒平)

(別紙)

図面〈省略〉

第一目録(HBC会館)

札幌市北一条西五丁目三番地の二

家屋番号 二五番

一、鉄筋一部鉄骨コンクリート造陸屋根六階建地下二階付店舗兼事務所

床面積

一階  三五七、二九坪

二階  二三九、二六坪

三階  二三二、八三坪

四階  三六二、三七坪

五階  二三二、一七坪

六階  二三五、六四坪

塔屋

一階   四九、三八坪

二階   四九、三八坪

塔屋階段室   一、六坪

地下

一階  一一六、二五坪

二階  二五四、二九坪

同上付属

鉄骨モルタール塗陸屋根造二階建倉庫

床面積

一階  一〇二、八一坪

二階   二四、四七坪

第五目録

業務担当者の職氏名(氏名省略)

社長

人事部長

業務部長

テレビ編集課長

専務取締役編成局長

人事部付

ラジオ業務課長

テレビ制作課長

常務取締役営業局長

人事課長

テレビ業務課長

報道部長

取締役技術局長

総務局次長

渉外部長

報道課長

取締役東京支社長

庶務部長

渉外部次長

テレビニュース課長

取締役役員室長

庶務課長

同右

アナウンス部長

取締役総務局長

株式課長

同右

アナウンス課長

秘書室長

用度課長

渉外課長

技術局次長

役員室調査役

営繕課長

編成局次長

技術局管理部長

同右

経理部長

編成局管理部長

同管理課長

審議室長

財務課長

資料課長

施設調査課長

審議室付

会計課長

ラジオ編成部長

ラジオ技術部長

労務部長

営業局次長

ラジオ編成課長

ラジオ技術課長

労務課主任

管理部長

ラジオ制作課長

ラジオスタジオ課長

労務課員

計算課長

テレビ編成部長

ラジオ札幌送信所長

テレビ技術部長

テレビ技術制作課長

企画室管理課長

東京支社技術部長

テレビ技術課長

テレビ手稲送信所長

企画部長

東京支社技術課長

運用課長

企画室長

調査課長

編成局付

第六目録

業務内容

一、札幌ラジオ送信所(第三目録)におけるラジオ送信業務。

一、大丸ビル(第二目録)におけるラジオ番組製作並びに送り出し業務。

一、札幌テレビ送信所(第四目録)におけるテレビ送信業務。

一、HBC会館(第一目録)におけるテレビ番組製作並びに送り出し業務。

一、右各項に関連のある一切の業務。

(第二ないし第四目録省略)

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